想いの行方
「ふっ……あ、あぁ……ブレイ……ク……も、っと……」
快楽に潤んだ金色の瞳で懇願するギルバート。
「君が素直なのはこの時だけデスネ」
軽口を言いながら、ブレイクは叩きつけるように荒々しくギルバートの身体を揺すぶった。
「ひっ!あぁ……――――っ!!」
白い喉元をのけ反らせ、ギルバートが一層高い声を上げる。
「ブレ、イク……ブレイク……」
揺すぶられながら、抱き締めてくれと言わんばかりにギルバートが白い腕を伸ばす。
舌っ足らずな甘い声で。
哀しいくらい切なく。
「ギルバート……」
まだ成長しきっていない細い身体を抱き締めてやる。
求めるままに、強く、優しく。
爪を立て、私の身体に徴を残しながら、君は他の誰かを見ている。
君の金の瞳に私の姿など一欠けらも映ってはいない。
君の心に私の姿など……
眠るギルバートを起こさぬように身支度を整え、パンドラの制服に身を包むブレイク。
仕事の後は、何時もギルバートはパンドラ内のブレイクの部屋で一夜を過ごし、ナイトレイの屋敷に戻っていた。
ブレイクがギルバートと親密な関係になったのはギルバートが初めて仕事を遂行した時だった。
ナイトレイ家は四大公爵の一つでありながら裏切りの疑惑を掛けられた公爵家で、主に要人暗殺や裏社会の仕事を任されることが多かった。
――――彼の主人を助ける為。
その強い思いに、彼は意に沿わぬ決意をして、ベザリウス家に背き、ナイトレイ家に赴いた。
どれだけ、この手を汚そうと、どれだけこの手を血に染めようと構わない。
主人を助ける為なら―――――!!
故に覚えた銃の扱い。
だが、もともと、優しく繊細で心のか細い少年だったギルバートにとって銃を持つことや、人を殺めることなど耐えがたいことだった。
初めて人を撃ち抜いた感覚。
飛び散る生温かい血飛沫を浴びたおぞましさ。
どんな理由であれ殺人と言う大罪を犯した自責の念と恨めしげに彼を凝視する死骸の恐ろしさに彼は自我を失った。
『しっかりなさい!!ギルバート君!!』
『オレが!オレが殺した……!オレがっ!!うわあぁぁぁぁ!!!』
『ギルバート!!』
錯乱するギルバートの心が壊れないようにブレイクは……
ブレイクに抱かれながらギルバートはずっと自分のマスターの名を呼んでいた。
泣きながら……まるで、幼い子供が母を求めるように。
『坊ちゃん……坊ちゃん……何処に……何処にいるんですか……』
『……坊ちゃん……』
自分を押し殺し、その手を血塗ろうとも助けたいと願う主人への想い。
そんな彼の姿にブレイクは自分の昔の姿を重ねていた。
執着にも似た主人への忠誠心……
君が守りたいものは主人なのか?
それとも主人を守り仕えると言う己の忠誠心か……
しかし、我に返ったギルバートの言葉にブレイクは痛みにも似た衝動を覚えた。
紛乱した自我を取り戻させるための情交ではあったが、包み込むように抱き締められたブレイクの胸に頬を擦り寄せ、ギルバートが小さく呟いた。
『……温かい……』
『誰かに……抱き締められる事が、うぅん、人の肌がこんなに温かいなんて……知らなかった……』
言って、酷く幸せそうに小さく微笑み、金色の瞳から綺麗な、綺麗な涙を溢れさせた。
『ギルバート……』
ブレイクは息が詰まりそうな程に胸が痛んだ。
あぁ……彼は無垢なままなのだ。
余りにも無垢で、純粋で誰かの傍でないと生きていけないのだ。
寂しくて孤独な子供。
彼の魂は愛されることを願い続けている。
その愛を、場所を与えてくれたのが彼が救いたいと願う主人なのだ……
主人の傍らこそが彼の生きていける場所――――
銃の扱いに慣れ、罪人を裁いてもギルバートは以前のように自我をなくすことはなくなった。
そして、何時からか彼は闇色の衣を纏うようになった。
命を奪った者達を弔う喪服のように。
それでも、仕事の後はギルバートはブレイクの熱を求めた。
それは、蜜事などと呼べる甘いものでなくギルバートにとって自分を失わない為のようにも見えた。
そんなギルバートをブレイクは何も言わず、受け止めた。
求めるままに。
望むままに。
どれだけ激しくこの身体を抱いても
溶けあうほどの熱を伝えても
砂に書いた文字が波に消されるように冷めてしまう彼の心と身体。
「こんな事に私を利用するなんて……君はなんて残酷なんでしょうネェ……」
彼の魂にまで刻まれた主人への想い。
―――主人を助ける為。
呪文のように繰り返し唱えられる言葉。
誰かの為に……なんて反吐が出るほど、胸糞の悪い言葉だ。
しかし、私はその言葉を君に囁く。
君にとって絶対的存在の主人を助ける為に。
そして……
君を繋ぎとめておくために。
だけど……
君が主人をあの混沌から助け出せたなら、この想いは罪人と共に深淵へと葬ろう。
あの夢の墓場へと―――――――――
8.29